ヤカの感想

読書とかの感想と、ちょっとの雑記

戦争と平和 下

読み終えました。長かった。

 

なんだろう…色々思うところもたくさんあったんだけど、まだまとまんないや。

でも、なんか端的に、端的に言えばこれは歴史を決めつける人へのカウンターなんだと思った。後年ガヤガヤとあーすべきこうだったって連中が嫌いなんだなって。もっと人やものは曖昧で、それから作られる歴史というものの捉え方に対して、強い訴えかけがある。

 

これは彼から見たナポレオン侵略時のドキュメンタリー風群像劇であって、そこに生きた人間をいかに見るかに心血が注がれている。もうそこは本当に心血、血で書かれてる?ってくらいに血が巡っている。この血が、紙面上でものを測る思考を痛烈に批判する。

 

西洋の考えに押され気味だったロシアの人だからこその気骨が見える。日本もやや同じ風土であると思う。文中で何度もナポレオンのこと書いてて、その視点は自分の学んだ印象と大きく違った。

最初はロストフに感情移入し、次にアンドレイに感情移入し、さいごはピエールのことを考えた。この3人が本当に考え方の違いが際立っているが、全て方向性の違う善性を持ってる。

愚かしいと言われてたピエールが一番全体を通してものを見て考えていた。けれど彼の才能が発揮されるのは半ばを過ぎてからで、それは戦争が呼び起こしたものなんだよな。けどピエールが一番、なにか深く成長していて感銘を受けた。

これは軍人だからとかではなく、ピエールの性質だったんだろうな。モスクワから捕虜になって、自由になる、あのシーンが好きだ。でもあの自由は彼だから感じられたものなのかもしれない。

人間の精神の上の、本当の幸福は、本当はいくつもいくつも種類がある、なんかあの朗らかな気持ち。なんだろう。とうといよね、自分も忘れかけてたけど、それを小説で感じさせるの、すごい。どれだけ深く人間を観察したんだ。

 

アンドレイが静かに療養して、あちらに行く、それをナターシャが感じるあのシーンも。本当にその場にいた人にしか書けないような苦しさと神秘性があった。あそこまで神々しいなにかを、そのまま文章で表現されている。馴染みのないものなのになんか苦しい、わかる、わかる気がする。

 

そんなかんじで当時のロシアの貴族の価値観、生き方、魂の崇高性を感じながらも、現代に生きる私は、貴族のような時間の自由を失いながら、農民のような牧歌的な魂を癒す労働もできない。一番近いのは歩兵であって、でも、その歩兵の描写は死んだり踊ったり略奪をする、大いなる流れの中の不幸な砂粒として描かれていることは軽い絶望だった。いや、砲弾運ぶシーンの時は煌めいてたか。でも、私は死ぬ仕事はしてないし、神がいないんだよ。終わったね。

 

彼らに近づくことはできないし、学ぶのもまた違うんだろう。ただ私はあまりに神秘に満ちて、美しい魂を持った人たちが、たくさんの人間の何かとめどない大波にさらわれ、静かに消えていく流れの鱗片を見てしまった気がするのだ。もうここにも、どこにも彼らはいない。

 

私は救済を求めたい。誰に?何に?ただ、生きてることに?

彼らの見つけた魂の救われる瞬間が欲しいんだ、それがどこにあるのか、それがてんでわからないんだ。

もしかしたら戦争が起こればわかるのかも、もしかしたらみんな、無意識でそう思って、戦争を起こすのかも。生きてる実感とかで。

でもそれは突飛だから、なにか、どこかなんか、本当に安らげる、現代の頼りどころ、旦那様、神様みたいなやつ。推し、でもないやつ。

どこにあるんだろか。